「借方=資金の利用(put)」
「貸方=資金の入手(get)」と考えれば、
複式簿記の仕組みが合理的に説明でき、
仕訳も簡単にできる。



複式簿記の仕組みを理論的かつ簡潔に説明することは、なかなか難しいようです。 そのためか、解説書などでは「あれこれ考えずに丸暗記しなさい」とか「習うより慣れろ」 といった趣旨のことがはじめの方に書かれていたりします。 また、最も基本的かつ重要な用語である「借方」「貸方」についても、「特に意味はなく、深く考えなくてもよい」と言われたりします。

しかし、学問的厳密さを求めるのでなければ、「借方=資金の利用(put)「貸方=資金の入手(get)」と考えることで、複式簿記の仕組みをわかりやすく説明ることは実は可能なのです。

以下では、白色申告で用いる単式簿記と比較しつつ、青色申告で用いる複式簿記の仕組みを解説していきます。
その過程で、拙作青色申告アシスト独自の概念である「残高グラフ」と「仕訳矢印」についても触れます。


1.単式簿記

納税者は、自ら所得金額と税額を正しく計算して申告しなければなりません。その所得金額は、年間の収益(売上・販売金額・雑収入等)から年間の費用(仕入・経費)を差し引いて求められます。例えば、400万円の収益があり、250万円の費用がかかったとすると、所得は150万円です(図1)。



この図の内容は、白色申告の際に提出する収支内訳書に記載する内容にほぼ相当すると考えてよいでしょう。なお、収益・費用・所得の各部分の縦幅(高さ)は、収益・費用の残高(「残高」の意味は後述)や所得金額に概ね比例しています。このような図のことを、青色申告アシストでは残高グラフと呼ぶことにしています。

さて、 年間の収益や費用を算出するには、日々の売上・販売金額・雑収入・仕入・経費等を次の例のように記帳しておく必要があります(図2)。



一回の取引につき、一つの項目(例えば「売上」)に関わる月日・摘要・金額が記録されていることから、こうした記帳方法を単式簿記と呼んでいます。


2.所得金額を求めるもう一つの方法

前節で、所得金額は年間の収益から年間の費用を差し引くことで求められることを述べました。ここでの所得金額とは、簡単に言えば1年間にどれだけ利益(または損失)があったかということですから、その間の事業用資産の増減によっても求められることが、直感的に分かります。仮に事業用資産が現金だけであると単純化してみると、例えば、期首に600万円の現金があり、期末に800万円に増えていたとすると、その間に200万円の利益があったと考えられます。このことを式に表すと、
所得金額 = 期末の資産 - 期首の資産
となります。

ただし、正確には資産の増減だけではなく、負債(例えば借入金)の増減も考慮しなくてはなりません。もし現金が200万円増えていたとしても、そのうちの50万円は友人からの借入金によって増えたのだとしたらどうでしょうか。その場合は、200万円(資産の増減)全部が利益とは言えず、そこから50万円(負債の増減)を差し引かなけれならないことは明らかでしょう。負債の増減が「期末の負債 - 期首の負債」で求められることも考慮して先ほどの式を書き直すと、
所得金額 = (期末の資産 - 期首の資産) - (期末の負債 - 期首の負債)
となります。

この式を、
所得金額 = (期末の資産 - 期末の負債) - (期首の資産 - 期首の負債)
と変形してみましょう。
この式では、期末の「資産 - 負債」から期首の「資産 - 負債」を差し引いて、その増減を求めています。「資産 - 負債」は、「正味の資産」(=純資産)と言い換えられますから、所得金額とは結局、純資産の増減であるとも言えることになります。この関係を残高グラフで表すと、例えば図3のようになります。



なお、この図は青色申告の際に提出する貸借対照表に相当します。

ここまでで、所得金額を求める方法は、次のように2通りあることが分かりました。
@ 所得金額 = 年間の収益 - 年間の費用
A 所得金額 = 期末の純資産 - 期首の純資産 = 純資産の増減

白色申告では@の方法を用いましたが、青色申告では、@とAを組み合わせて用います。@には売上や仕入などの明細が分かるというメリットがあり、Aには財務状況が分かるというメリットがあります。2つを組み合わせることで、両方のメリットを生かすことができるわけです。

それでは、@とAを組み合わせるとは具体的にどういうことなのでしょう。また、日々の取引をどのように記録するのでしょう。それらの点について、次節以降に説明したいと思います。


3.貸借対照表と損益計算書

前節までに、2つの残高グラフを紹介しました。1つは 収益・費用と所得の関係、もう一つは資産・負債・純資産と所得の関係を表していました。この2つを、図4のように組み合わせてみましょう。



このとき、所得は省いて残りの要素を組み合わせることと、左の残高グラフを半回転させるイメージで(収益と費用を逆にして)右の残高グラフに組み合わせることに留意してください。そうして組み合わせた結果が図5です。



この図の黒い線より上は青色申告で用いる貸借対照表、下は損益計算書に相当します。なお、この図は各要素間の関係を表す「簿記の5要素」図とよく似てはいますが、各要素の残高をもグラフとして数量的に表現していることに注意してください。

もとの2つの残高グラフにおいて所得金額は同額なので、新たな残高グラフの左(資産・費用の残高の合計)と右(負債・純資産・費用の残高の合計)も同額となります。そして、期末に求められる所得金額を、期中の任意の時点での損益と置き換えても各要素間の関係は変わりませんので、左右同額という関係は期中のどの時点においても成り立ちます。

次に、 資産・負債・純資産・収益・費用の各要素の性質を考察しながら、この残高グラフの見方を深めていきましょう。

資産は、事業用資金の運用状況を表します。資産は、現金・普通預金・商品・建物・車両運搬具・事業主貸・売掛金などの項目に細分化されます(これから説明する複式簿記ではこれらの項目のことを勘定科目と言います)。
負債は、事業用資金の調達状況を表します。負債は、買掛金・借入金・預り金・事業主借・買掛金などの勘定科目に細分化されます。
純資産は、先述のように資産から負債を差し引いた正味の資産のことですが、個人事業においては元入金と呼ばれます。元入金は、事業を始めるに当たって事業主が用意した運転資金であり、負債と同様、事業用資金の調達状況を表します。なお、元入金およびそれに類する事業主貸(資産)・事業主借(負債)の意味と相互関連を理解することは、個人事業の複式簿記ではきわめて重要なので、後ほど改めて解説します。
収益は、純資産の増加原因であり(※)、事業用資金の獲得を表します。収益は、売上高・家事消費等・雑収入などの勘定科目に細分化されます。
費用は、純資産の減少原因であり(※)、事業用資金の消費を表します。費用は、仕入高・水道光熱費・広告宣伝費・給料賃金などの勘定科目に細分化されます。

貸借対照表中の3要素(資産・負債・純資産)の各残高は、開業以降の一回一回の取り引きによる増加と減少を差し引きしながら累積した金額であり、ある時点で存在する財産(3要素をまとめて「財産」と呼ぶことにします)の貯蔵量(ストック)を表します。(「ストック」はよくプールの貯水量に例えられます。)
一方、損益計算書中の2要素(収益・費用)の各残高は、期首を0円としてある時点までの一回一回の取り引きによる増加と減少を差し引きしながら累積した金額であり、その期間に財産に出入りした量(フロー)を表します。(先ほどのプールの例を用いると、「フロー」はプールに出入りした給水量と排水量に当たります。)
このように貸借対照表と損益計算書では記載されている金額の意味合いが異なる(「○○円ある」と「○○円入出金した」の違い)わけですが、個々の取り引きによる各要素の増減額について見ると、どれも「○○円増えた(減った)」という事実を表す点では違いはありません。

複式簿記は、一回の取り引きを借方(左)と貸方(右)の一組で記帳します。その仕組みは後ほど詳しく述べるとして、「借方=資金の利用(put)「貸方=資金の入手(get)(※※)、つまり一回の取り引きの二側面である資金の利用左、入手を右に一組で記録することだと考えてみましょう。すると、一回の資産・費用の増加(=資金の運用・資金の消費)は資金の利用のことであり、一回の負債・純資産・収益の増加(=資金の調達・資金の獲得)は資金の入手のことであることから、それらの累積額を表す貸借対照表と損益計算書の中で、前者が借方(左)に、また後者が貸方(右)に位置付く理由の説明がつきます(図6)。



もっとも、各要素はいつも増加するわけではなく、減少することもあります。資産を減らして負債を減らす(例えば、定期預金を解約して借入金を返済する)ことは、「資産から入手した資金を負債の返済に利用する」ことだと考えられるので、資産が「貸方=資金の入手」、負債が「借方=資金の利用に記録されます。つまり、資産だから借方、負債だから貸方などと固定しているわけではないのです。それでも貸借対照表と損益計算書の中で左右が固定しているのは、増加が減少よりも多く、残高(増加から減少を差し引いた残り)がプラスになることを前提としているためと考えてよいでしょう。実際、ストックの残高がマイナスになることは殆どない(例えば、現金がマイナスになることは絶対にない)ですし、フローの残高がマイナスになる(例えば、今年の売上が全くなくて、昨年売り上げた商品が大量に返品されてきた)のは例外的なケースです。



※ 収益の増加は資産の増加原因となり(例えば、売上があったので現金が増えた)、稀には負債の減少原因にもなります(例えば、売り上げたお金で借入金を相殺した)。資産の増加と負債の減少は正味資産の増加原因となりますので、収益は純資産の増加原因を表すとも言えます(収益は取り消されて減少する場合もあり、そのときは純資産の増加分から差し引かれます)。
また、費用の増加は資産の減少原因となり(例えば、仕入をしたので現金が減った)、負債の増加原因ともなります(例えば、仕入をしたので買掛金が増えた)。資産の減少と負債の増加も正味資産の減少原因となりますので、費用は純資産の減少原因を表すとも言えます(費用は取り消されて減少する場合もあり、そのときは純資産の減少分から差し引かれます)。
前節で、所得金額を求める方法には次の2通りがあることを述べました。
@ 
所得金額 = 年間の収益 − 年間の費用
A 
所得金額 = 期末の純資産 − 期首の純資産 = 純資産の増減
収益と資産の性質に基づいて@の式を書き直すと、
@ 
所得金額 = 年間の収益 − 年間の費用 = 純資産の増加 − 純資産の減少 = 純資産の(正味の)増減
となり、結局Aと同じ式になります。

※※ 適当な用語がどうしても思い浮かばないため、以下では
「入手」「利用」という用語を使います。英語ならば、getput という便利な単語があるのですが・・・。


4.仕訳

複式簿記の記帳は資金の入手利用を一組で記録することだと述べました。だとすると、一回一回の取り引きを具体的にどう記帳したらよいのでしょうか。次の例で見てみます。
(例1)4月8日に衣類10万円を売り上げ、同じ日に、代金全額が普通預金に振り込まれた。
記帳は5要素を細分化した勘定科目で行いますので、取り引きがあるたびに、どの勘定科目で資金を入手してどの勘定科目で資金を利用したのかを考えます(この作業を仕訳と言います)。この例だと、収益の勘定科目である「売上高」で10万円を入手し、資産の勘定科目である「普通預金」で10万円を利用した(「利用した」がわかりにくければ「運用した」)、ということになるでしょう。あとは、「借方=資金の利用」を左に、「貸方=資金の入手」を右にして必要事項を表に記入して仕訳の完成となります(このような形式の表を仕訳帳と言います)。



入手利用は一回の取り引きの二側面であり、必ず一組で発生します。形式としては、必ず左右に分けるものでなければならないという理由はなく、上下で一組にしたり二つの帳簿に分けたりすることもあります。しかし、その場合は図のような仕訳帳と比べると一覧性が劣ると思います。

なお、仕訳は左右で一組ですが、必ずしも一行に納まる場合ばかりではありません。例えば、先ほどの例を次のように少し変えてみましょう。
(例2)4月8日に衣類10万円を売り上げ、同じ日に、代金のうち5万円が現金で支払われ、残りは普通預金に振り込まれた。



このような仕訳のことを、複合仕訳と言います。

以上、仕訳について説明しましたが、勘定科目ごとに年間のすべての仕訳について、増加と減少を差し引きしながら累積すれば、貸借対照表と損益計算書ができあがることを再確認しておきます。


5.仕訳矢印

仕訳を次のように図として表現したものを青色申告アシストでは「仕訳矢印」と呼ぶことにしています。



左が資金を入手した勘定科目(=貸方科目)、右が資金を利用した勘定科目(=借方科目)です。また、矢印の向きは、時間の流れを表しています(取引は瞬時に完了することもありますが、その場合でも「入手利用」の時間的順序に変わりはありません)。
入手利用」を念頭に、勘定科目と勘定科目を矢印で結ぶことができれば、あとは次のように仕訳を完成させることは簡単です。




6.仕訳矢印と残高グラフ

仕訳矢印を考えるときに、先に述べた残高グラフが役に立ちます。青色申告アシストでは、メイン画面が仕訳帳となっており、その右に残高グラフが表示されています(図10)。



この両者は連動しており、仕訳帳に仕訳が入力されると残高グラフが自動的に更新され、また、仕訳帳で仕訳を選択すると残高グラフ上で相当する仕訳矢印が表示されます(図11)。



逆に、残高グラフ上で仕訳矢印を作成すると、仕訳に変換されて、選択されている行の一つ上に挿入されます(図12)。



なお前述したように、残高グラフ(貸借対照表と損益計算書)上では各勘定科目の位置は左右どちらかに固定していますが、仕訳矢印を仕訳に変換すると左右逆になることもあります。もちろん、仕訳矢印の始点側(=資金の入手)が常に右(=貸方)、仕訳矢印の終点側(=資金の利用)が常に左(=借方)です。


7.仕訳矢印と残高グラフについての補足

このように、仕訳矢印と残高グラフは仕訳作業に大変役立つツールです。この節では、複式簿記についての理解を深めるため、この両者の関係についてもう少し考えていきます。



資金の入手利用という時間的流れの矢印で勘定科目と勘定科目を結びつけたものが仕訳矢印でした。勘定科目の数は非常に多いので、代わりに5要素同士で通常あり得る結びつきを残高グラフ上で列挙したのが図13です(※)。組み合わせは13通りですが、どの矢印も始点側が入手(貸方)、終点側が利用(借方)であることは共通です。つまり、入手が貸方利用が借方というたった1つの明確なルールで仕訳へと変換できます。

これとは別に、資金増減の「原因が貸方、結果が借方であるとする考え方もあります。これは、当てはまる場合と当てはまらない場合があり、結論としては採用しない方がよいと思います。例として、借入金(負債)と現金(資産)の関係を見てみます(図14)。



まず、現金を借り入れた場合は、簡単に説明できます。
「借入金が増えたので(原因)、現金が増えた(結果)」という因果関係は明確で、「原因が貸方、結果が借方」という関係も成り立っています。
問題は、逆に借入金を現金で返済した場合です。
「借入金が減った(返済した)ので(原因)、現金が減った(結果)」という因果関係があるとすると、「原因が借方、結果が貸方」というように逆転してしまいます。かと言って、「現金が減ったので(原因)、借入金が減った(返済した)(結果)」という逆の因果関係も納得しがたいでしょう。
一方、「現金が減って(入手)、借入金が減った(利用)」と考えれば、「入手が貸方利用が借方」という関係がきちんと成り立っています。
もっとも、「現金が減って、借入金が減った」ことこそが因果関係なのだ、という反論もあるでしょう。入手利用は取引の二側面なので、当然関係はあります。しかし、この場合の関係とはシーソーの右と左の関係(左が上がったので右が下がった=右が下がったので左が上がった)のような双方向の因果関係で、先ほどから述べているものとは性質が違うのです。この双方向の因果関係を採用してしまうと、仕訳を考えるに当たって何をもって「因果関係」とするのかが曖昧になります。第一、原因と結果が交換可能であるならば、仕訳を考えるヒントになり得ません。
さらに言うと、仕訳によっては双方向の因果関係しか存在しない場合もあります。図13の中の赤い矢印は、資産もしくは負債の中での配分変更(=資金移動)を表しており、先ほどのシーソーの例が当てはまるのです(例えば、定期預金が増えたので普通預金が減った=普通預金が減ったので定期預金が増えた)。

次に、「資金は貸方から借方に流れる」、つまり資金の流れがわかれば仕訳ができる、とする考え方もあります。これは、不正確ではありますが、実用上、大変役に立つ考え方です。「資金の入手利用」というイメージを、「資金の流れ」という一層具体的なイメージにそのまま置き換えても、何も問題は生じません。ただし、実際に資金が流れるのは、図13で言えば赤い矢印の仕訳だけであることは知っておいた方がよいかもしれません。また、例えば現金を借り入れたことを「借入金から資金が流れ出て現金に流れ入った」とイメージすると、現金が増加するのはよいとしても借入金も増加することに違和感を感じることになるでしょう。

最後に、「増加ならば貸借対照表・損益計算書に記載されている位置と同じ側に、減少ならばそれとは反対の側に」、とする考え方について取り上げます。これは正しい考え方なのですが、少々ややこしいのと、これ自体ではその正しさを説明できないのが難点です。説明できなければ、「そう決まっているのだから、そのように覚えましょう」ということになってしまいます。ではなぜ「正しい考え方」なのかというと、「借方=資金の利用」「貸方=資金の入手」であることを前提とすれば説明が可能だからです(3節で既に述べました)。残高グラフと仕訳矢印でも説明できます(図13の仕訳矢印で、「+」が増加、「−」が減少を表しており、資産・費用では、利用はすべて「+」、入手はすべて「−」に、 負債・純資産・収益では、入手はすべて「+」、利用はすべて「−」と結びついています)。
であれば、「資金の入手利用」(または「資金の流れ」)のイメージを使って仕訳を考える方がずっと早くて簡単です。

以上をまとめると、繰り返しになりますが、「借方=資金の利用「貸方=資金の入手」と考えることで、日々の仕訳がより簡単になるとともに、複式簿記の仕組みを合理的に説明することが可能になるのです(学問的な正確さを保証をしているわけではなく、あくまでも実用上の話です)。


※ これらの中で、収益と費用の直接的な組み合わせがないことに注意してください。(2)節で、白色申告では収益と費用について単式簿記で記録をする、と述べました。もし収益と費用の間に取引の関係あるのならば、その二側面である利用と入手について複式簿記で記録することが可能なのですが、関係がない以上、単式で記録するしかないのです。


おまけ.元入金・事業主貸・事業主借

個人事業の複式簿記では、元入金・事業主貸・事業主借という独特な勘定科目があり、重要な役割を果たしています。それらの意味はなかなか理解しがたいのですが、ここまで読んでくださった方であれば、その本質をしっかりと掴んでいただけると思います。

事業を始めるに当たって、さし当たって300万円の現金が必要だとしましょう。そのうち100万円は誰かから借り入れできる当てがあるとすると、残りの200万円が事業主自身で用意しなければならない分です。この200万円が元入金です。つまり元入金とは「(はじ)めに事業主から手した資」であり、帳簿上に登場するのは、開業の時と、前年からの繰り越しの時(=1月1日)だけです。次の図は、開業時の残高グラフです。  



数日後、現金が300万円では足りない見通しとなり、事業主があと50万円を追加で用意することになったとします。この場合は、事業主自身が用意するという点で先の200万円と変わらないのに、元入金ではなく負債の勘定科目である「事業主借」(=事業主から借りた資金)を使います。これは、「元(はじ)め」の資金である元入金が期中に増減するのは好ましくなく、貸借対照表で期首と期末の元入金は同額とされているためです(国税庁「貸借対照表作成の手引き」)。
「事業主借」は、このように運転資金を追加する場合だけでなく、事業用の文房具代や電気料金などを事業主個人が肩代わりして支払う場合にも使います。これらは、「事業のために使われている事業主個人の資金」であるという点で元入金と全く同じなので、翌期首には元入金に合算されます。その様子を、残高グラフで見てみましょう(図16)。この例では、期中に50万円の追加元入れと、75万円の現金仕入れ・75万円の現金売り上げがあったと仮定しています。



図から、
@ 今期の元入金 + 事業主借 = 翌期の元入金
という式が成り立つことがわかります。

次に、事業主個人の生活費が足りなくなって、事業用の現金から取り崩す場合を考えてみます。事業用の資金が事業主個人へと戻るのですから元入金の減額となるわけですが、先に述べたのと同じ理由で、元入金ではなく資産の勘定科目である「事業主貸」(=事業主へ貸した資金)を使います。
「事業主貸」は、このように運転資金を取り崩す場合だけでなく、自宅兼事務所の電気料金などを事業資金から支払う場合にも使い、翌期首には元入金から減額されます。その様子を、残高グラフで見てみましょう(図17)。この例では、期中に50万円の取り崩しと、75万円の現金仕入れ・75万円の現金売り上げがあったと仮定しています。



図から、
A 今期の元入金 − 事業主貸 = 翌期の元入金
という式が成り立つことがわかります。

最後に、期中の事業主個人との資金のやり取りはなく、75万円の現金仕入れ・125万円の現金売り上げがあったとします。この場合は、125万円 ― 75万円 = 50万円の所得があり、資産(この場合は現金)が50万円増えたことになります。元入金は、資産から負債を差し引いた正味の資産(純資産)であるという意味もありますので、翌期首にこの所得が合算されます。その様子を、残高グラフで見てみましょう(図18)。



図から、
B 今期の元入金 + 所得 = 翌期の元入金
という式が成り立つことがわかります。

ここまで、事業主借の合算・事業主貸の減額・所得の合算という3つの場合を見てきましたが、通常これらは同時に起きることがらなので、3つの式を合わせた
今期の元入金 + 所得 + 事業主借 − 事業主貸 = 翌期の元入金
という式を使うことになります。
もっとも、会計ソフトを使っていれば、この計算は自動的に行われます。青色申告アシストでも、フリー版では前期の貸借対照表を入力することで、またプレミアム版では前期のファイルを読み込むことでも自動計算されます。



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